前から気になっている撥鏤(ばちる・染色した象牙の表面をはね彫りする工芸)という技法があります。昨年亡くなった吉田文之さんという方が復元(1985年に撥鏤の人間国宝に認定)し、以前日本伝統工芸展でその作品を目にする機会があったのですが、繊細で美しい小さな装身具は数ある名品のなかでも特に印象的で、こんな帯留をつけたら本当にステキだなと嘆息したのでした。
10月30日から11月15日まで奈良の国立博物館で開催される第57回正倉院展に、その復元にいたる大本、正倉院の宝物に残る撥鏤の碁石が今回展示されるというので、混雑を覚悟で奈良公園へ向かいました。平日の4時ごろ、少しは人波も引いたころを狙います。お目当ての紅牙・紺牙撥鏤棊子(こうげ・こんげばちるのきし)は想像よりも小ぶりで、花喰い鳥がひとつひとつ刻みこまれています。はるか天平のころの遊戯、この石でゲームを楽しんだのは悠遠の昔であって、いまや誰に使われることなく眠り続ける碁石の可憐さは深く心に残りました。
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